膠原病・リウマチ科 現在の関節リウマチ治療について
現在の関節リウマチ治療について
はじめに
関節リウマチ(RA)は多発関節炎を主症状とする慢性の炎症性疾患です.その病因は不明ですが,マクロファ−ジ,T細胞,好中球,滑膜細胞などの多くの細胞や,それらの細胞等より産生されるサイトカイン(各種の細胞から分泌され,免疫反応の強さや期間の調節,細胞と細胞間での情報交換に働く,ホルモン様の低分子量の蛋白)や成長因子等が関与する免疫の異常に起因すると考えられています.RAの患者では,関節内に自己免疫応答(本来自分を守るために働くべき免疫システムが間違って自分の体を攻撃してしまう現象)が生じ,滑膜内の血管を増やし滑膜組織の増殖を起こし,やがて軟骨や骨破壊へと進展します.その結果,骨や関節の変形を引き起こし,最終的には機能不全に至ります.患者数は70〜100万人とその頻度は少なくなくありません.元来は,決して高齢者の病気ではなく,むしろ30〜50歳代の若い女性に好発する病気でしたが,高齢化社会の影響で高齢に発症する患者さんも少なくなってきています.
通常,症状は数週から数ヶ月の単位で出ることが多いですが,数日の単位で発症する場合もあり,その発症の仕方は様々です.治療や自然経過で寛解になる症例も存在しますが半数以上の症例は進行性であり,その中には短期間で急速に進行する症例も存在します.最近の研究では,関節破壊は発病後早期(最初の2年間)に進行することがわかっており,一旦関節破壊や変形をきたした場合は戻らなくなり(非可逆的),放置しておけば寝たきりになる病気です.また,関節病変だけでなく,RAそのものによる内臓病変(関節外症状)や長期の炎症持続やステロイド薬の服用による動脈硬化性病変により脳・心血管障害等を引き起こしたり,関節破壊によって引き起こされる日常生活活動動作(ADL)障害に伴う合併症等が生じたりして,生命予後の悪化を来たします(RAの方の平均寿命は健常人に比べて10年短いと言われています).従って我々医師は長期的な視野にたって,来るべき関節破壊,ADLの低下,生命予後の悪化を予防する目的で,早期からの進行を抑制する治療を実践していきます.患者さんの中には先々のことよりも『現在の痛み』を何とかして欲しいということを重視しがちの方もおります.痛みをとっているだけではダメで,その先にある生命予後の悪化を防ぐことが重要であるということ,すなわち患者さんと医療者のギャップを埋めることが重要です.医師と患者さんとの治療目標の共有が不可欠です.
RAの治療はここ20年で目覚ましく進歩し,その進歩により寛解を目指せる時代となってきました.つまり,以前は症状をとるだけの治療であったものが,治療の進歩により,後述のメトトレキサート(MTX)を中心とする抗リウマチ薬(DMARDs)と生物学的製剤/JAK阻害薬をうまく使用する事により,寛解や治癒を目指すことが出来る時代へと移ってきています.寛解とはRAの症状や所見が認められなくなった状態のことで,臨床症状や病気の活動性が完全に落ち着いている状態を意味する『臨床的寛解』が一般的です.寛解には更に,関節破壊の進行もなくなったことを意味する『構造的寛解』,そして,機能障害の進行がなく日常生活に支障のなくなった『機能的寛解』,これらの三つの寛解(臨床的寛解,構造的寛解,機能的寛解)を満たす『完全寛解』,更に薬物治療の必要が全く無くなる程に疾患が抑制された『薬剤フリー寛解』があります.しっかりした治療を行う事で,より高度の寛解状態を目指すことが出来るようになってきています.
寛解を目指す治療に必要な概念
寛解を目指すのに必要なことは,『早期診断と早期治療』と『疾患活動性の十分な制御』です.
(1) 早期診断・早期治療
RAの早期の時期に活動性を抑制すれば,「来るべき関節破壊の進行を少なくする,あるいは止めることができる」という時機(=window of opportunity)が存在することが,臨床試験により示唆されています.発症早期であっても活動性が残っていると関節破壊は進行します.従って,早期に診断し,関節破壊をきたす前にRAの活動性をできるだけ早く抑制することが重要となります.早期に診断するとは,アメリカリウマチ学会(ACR)1987年RA改訂分類基準を満たす前に,早めにRAを診断するということです.それを目的にして2010年にACR/EULAR(ヨーロッパリウマチ学会)よりRA新分類基準が考案され,臨床的に使用できるようになりました.この基準を用いることで,より早期からMTXを中心としたDMARDsで治療できるようになってきました.その他MRI検査やパワードップラー法を用いた関節エコー,抗CCP抗体等の血液検査も早期診断の手助けとなります.
(2) 疾患活動性の十分な制御
2009年EULARで「全ての患者において,できるだけ早期に『寛解』もしくは『低疾患活動性』を達成することを目指した治療が必須で,治療目標(寛解あるいは低疾患活動性)が達成されるまでは,高い頻度で(1〜3ヶ月ごとに)厳密なモニタリングを行い,最適な治療を適応していくことが必要」という声明分が発表されました.すなわち,『寛解』もしくは『低疾患活動性』という治療目標を設定し(「目標達成に向けた治療」;Treat-to-Target(T2T)),厳格に高い頻度でコントロールを行う(Tight control)というものです.これらは翌年(2010年)EULARより,具体的に最終版の10項目の記述にまとめられ,患者さんはT2Tについて適切に説明を受けるべきであると述べられています.
では,関節破壊進行を防止するために,RAの疾患活動性を具体的にどこまで下げたら良いのでしょうか?以前は,疾患活動性スコアであるDAS28(DAS28は指定された28関節のうち圧痛関節数,腫脹関節数,患者さんによる全般評価,炎症反応より計算され0〜10点で評価され,点数が高いほどRAの活動性が高いと判定されます)を用いて3.2未満(低疾患活動性),可能なら2.6以下(寛解レベル)まで下げることが目標でした.現在ではより厳格な疾患活動性スコアであるSDAI(SDAIは指定された28関節のうち圧痛関節数,腫脹関節数,患者さんによる全般評価,医師の評価,炎症反応より計算され,点数が高いほどRAの活動性が高いと判定されます)で寛解レベル(SDAIで3.3以下)を目標値と設定して治療を行っています.DAS28やSDAIで中疾患活動性の状態が持続しますと関節破壊が進行し身体機能障害が進行します(高疾患活動性の場合は更に急速に進行します).すなわち,疾患活動性が中等度でも高度でも,しっかり薬剤を使用し,なるべく早く少なくとも低疾患活動性,可能なら寛解の状態に持って行く必要があります.早く寛解に導くためには,寛解導入率の高く,寛解導入までのスピードが速い,更に寛解の維持が容易で副作用プロフィールに優れている薬剤を使用する必要があります.これらの条件を満たすMTXを中心としたDMARDsと炎症性サイトカインを標的とした生物学的製剤やJAK阻害薬が寛解導入のための原動力となります.
以上のスコアが低疾患活動性や寛解レベルにある方でも,頻度は少なくなりますが関節破壊や機能障害の進行する方もいらっしゃるので,定期的にレントゲン検査を行って,関節破壊が進行していないかどうかのチェックも必要ですし,身体機能障害の進行がないかどうかのためHAQなどの身体機能の定期的評価も重要です.
RA治療の四本柱は,①薬物療法,②手術療法,③リハビリテーション療法,④教育です.そのうち,薬物療法について具体的に述べたいと思います.
RAに対する補助薬物療法
まずRAに対する補助薬物療法,非ステロイド系消炎鎮痛薬,ステロイド薬そして抗RANKL抗体について述べたいと思います.
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1.非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
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慢性の関節炎に伴う疼痛・腫脹を主訴とするRAでの第1選択薬で,RAの炎症の抑制や疼痛の除去を目的として使用されます.シクロオキシゲナーゼ(COX,特にCOX-2)の働きを阻害し,その結果,プロスタグランジン(PG)の産生を抑制しすることによって速やかな鎮痛効果をもたらします.抗炎症作用の発現には1〜2週間を要し,RAでは炎症の程度を軽減させうる作用はあっても,その進行を阻止する作用や関節破壊を防止する作用はありません.代表的なものとしては,アリール酢酸系のインドメタシン(インダシンâ),ジクロフェナック(ボルタレンâ),スリンダク(クリノリルâ),プロピオン酢酸系のロキソプロフェン(ロキソニンâ),オキシカム系のピロキシカム(フェルデンâ,バキソâ),メロキシカム(モービックâ)などがあります.最近では,胃腸障害の少ないCOX-2選択阻害薬であるメロキシカム(モービックâ),エトドラク(オステラックâ,ハイペンâ),セレコキシブ(セレコックスâ)なども開発され使用されています.NSAIDsの主な副作用としては,消化管障害,肝機能障害,腎機能障害,過敏症(皮疹)・喘息,血液障害などがあります.症状として出にくい副作用もあるので,定期的な血液検査等をする必要があります.
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2.ステロイド薬
ステロイド薬はRAの炎症を迅速かつ効果的に抑制し活動性の病変を有するRA患者のQOLを著明に改善する薬剤です.しかし,RAを根治することは不可能で依存性のため中止しにくくなり,その結果,長期連用による副作用や合併症から生命予後に及ぼす病態に至ることもあります.一方,発症早期でのステロイド薬の少量投与(プレドニン換算10mg/日以下)は関節破壊を抑制し,その投与の中止で関節傷害を増強させるとの報告もあります.またDMARDsの併用で,以前に比しステロイド薬からの離脱が必ずしも困難ではなくなりました.
ステロイド薬の適応は相対的なものと絶対的なものがあります.ステロイドでなければ改善できない重篤な病態を有する症例,例えば,血管炎や臓器病変を伴う重症の悪性関節リウマチや,発熱などの全身症状や多関節の激しい滑膜炎を有するRA(急速進行型RA)にはステロイド薬は絶対的適応です.また,NSAIDsもしくはDMARDsの使用によってもRAの活動性がコントロール不良で骨破壊が進行し患者の苦痛も強い場合や妊娠や副作用でNSAIDsやDMARDsが使用不可能な場合等はステロイド薬の相対的適応となります.更に,活動性の高い関節が1個から数個に限定され,その病変のためQOLが著しく低下しているときや,リハビリテーションが効果的に実施できないときは関節腔内注射の適応となります.
ステロイド薬の副作用として,重篤なものは感染の誘発・増悪,消化性潰瘍,糖尿病,骨粗鬆症,動脈硬化などがありますが,特に高齢者・閉経後女性の骨粗鬆症へ注意が必要です.軽微なものとしては,にきび,食欲亢進による体重増加,満月様顔貌,皮下出血などがあります.ステロイド薬は「両刃の剣」であるということを理解する必要があります.
現在の治療ガイドラインにおいて,低用量のステロイド薬の全身投与は有害事象(副作用)の発現リスクを検討した上で短期的(6ヶ月以内)には使用してもよいとなっています.DMARDsの効果が出たら,減量して中止していきます.
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3.抗RANKL抗体
RANKLを標的としたヒト型IgG2 モノクローナル抗体で,RANKLを特異的に阻害し破骨細胞の形成,機能および生存を抑制することにより骨びらん形成を抑制します.元々,骨粗鬆症の治療薬ですので,骨密度の改善効果,骨折抑制効果があります.破骨細胞に関連しない炎症や関節裂隙狭小化を抑制できません.従って,RAの疾患活動性を改善させることもできません.副作用として,低カルシウム血症,顎骨壊死などがあります.
従来型合成抗リウマチ薬(csDMARDs)
炎症自体を抑える作用は持ちませんが,RAの活動性をコントロールする薬剤です.免疫調節剤と免疫抑制剤がありますが,それらの作用機序にはなお不明な点が多いようです.DMARDsにはRAを寛解に導く効果があり,関節破壊の進行を抑制する作用があります.RA罹患期間が短いほどDMARDsの効果が高いことが示されており,早期からの導入が勧められています.DMARDs自身には抗炎症作用はないかあっても乏しいので,通常初期に症状がある場合には,NSAIDsを併用して用いるのが原則です
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1.従来型合成DMARDs全般
- csDMARDsには,オーラノフィン(リドーラ®),ミゾリビン(ブレディニン®),アクタリット(オークル®/モーバ®)のような比較的抗リウマチ効果の弱いものから,サラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN®),金チオリンゴ酸ナトリウム(シオゾール®),D−ペニシラミン(メタルカプターゼ®),ブシラミン(リマチル®),タクロリムス(プログラフ®),MTX(リウマトレックス®/メトレート®),レフルノミド(アラバ®),イグラチモド(ケアラム®)といった抗リウマチ効果の中〜強いものまであります(ロベンザリット[カルフェニール®]は発売中止となりました).これらcsDMARDsの特徴として共通するのは,効果発現が遅いこと(通常2〜3カ月を要しますが,早い薬剤でも1カ月位最低でもかかります),副作用,効果のモニタリングとして定期的に検査が必要であること,エスケープ現象が存在すること(RAが良くコントロールされていたにもかかわらす,その効果が減弱してくること)が挙げられます.現実的には,副作用やエスケープ現象のため平均で約50%の患者さんがその薬剤を中止されます(MTXを除く).DMARDsの副作用は薬剤によって異なりますが,皮膚粘膜症状,消化管障害,肝障害,腎障害,血液障害,間質性肺炎などが挙げられ,特に間質性肺炎を合併した場合には重篤な状態に陥ることもあります.
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2.経口MTX(リウマトレックス®/メトレート®)
これらのcsDMARDsのなかで,特にMTXは,米国ではRA治療における標準薬と位置づけられています.葉酸代謝における酵素を阻害し,効果も3〜6週間と比較的早期に発現します.最も耐用性の高いcsDMARDsで,これは効果の高さと副作用の頻度の低さを反映するもので,他のcsDMARDsと比較し格段に継続率がよいことが分かっています.また,研究の結果,MTXは,他のcsDMARDsに比し生命予後を改善することもわかっています.日本で使用できる用量は,以前は4mg〜8mg/週と少な目で,他のcsDMARDsに治療抵抗性の場合にしか使用できませんでしたが,2011年2月に成人用量拡大が承認され,現在では16mg/週まで,しかも第一選択薬としても使用が可能となりました.
MTXの副作用は,量が増えると出やすい副作用(肝機能障害[肝臓機能検査の悪化],消化管症状[口内炎,吐き気など],骨髄障害[白血球減少,血小板減少,貧血など])と量と無関係に起こる副作用(間質性肺炎,感染症,リンパ増殖性疾患,B型肝炎ウイルスの再活性化など)があります.量が増えると出やすい副作用は葉酸を併用することで軽減することができますので,MTX内服時,特にMTXの量を多く使う際には葉酸を併用することが推奨されています.また,食事が摂れない時や体調不良時に内服すると副作用が強く出やすくなりますので,そのような場合にはMTXを休むことが重要です.
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3.注射MTX(メトジェクト®︎皮下注)
2022年11月16日にMTXの注射剤であるメトジェクト®︎皮下注が発売されました.本来ならば,前述の様に週に1回内服していたMTXの皮下注射製剤で(製造販売元:日本メダック,販売元:エーザイ),RAに対して使用することができます.メトジェクト®︎は,シリンジ製剤で,7.5mg,10mg,12.5mg,15mgの4つの用量があります.用法用量として,成人に対して7.5mgを週に1回皮下注射し,最大投与量は15mgです.自己注射も可能です.経口製剤に比べると,薬価(お薬の値段)は高くなってしまいます.
本来なら経口で済むMTXですが,どの様な場合にメリットがあるのでしょうか.副作用は,基本的にはMTXの経口薬と同じですが,悪心などの消化器症状(腹部不快感,上腹部痛,嘔吐)や肝障害の副作用は,メトジェクト®︎の方が頻度の低い可能性があります.特に悪心は,国内第Ⅲ相臨床試験(パート1)において,メトジェクト®︎群は 3.8%(52例中2例),MTX経口群は 12%(50例中6例)と,メトジェクト®︎群の方が少ない傾向があります.経口薬で悪心がありMTXの増量ができず効果が不十分な方などには,特に使いやすそうです.なお,経口MTXと同様に,用量依存性の副作用を軽減する目的で,葉酸(フォリアミン®)を投与日の翌日あるいは翌々日に補充することが推奨されています.
メトジェクト®︎の有効性を検証するために,国内第Ⅲ相臨床試験(パート1)が行われました.被験者をメトジェクト®︎皮下注(+プラセボ[効果のない偽の薬]経口薬)群とMTX経口(+プラセボ皮下注薬)群の2群に振り分けた二重盲検ランダム化比較試験です(医師も患者もメトジェクトを打っているかどうかわからない).主な評価項目は「投与12週後の20%改善率(ACR 20%改善率)」と設定されました.その結果は,メトジェクト®︎群とMTX経口群の12週時のACR20%改善率に両群間で有意差は認められず,メトジェクト®︎の有効性は,MTX経口薬と劣らない結果でした(非劣性).メトジェクト®︎の臨床試験とは関係ないですが,海外の研究によると,MTXにおいて,経口薬ではある程度の用量(日本人においては12mg程度ではないかと言われています)を越すと増量の効果が弱くなりますが,皮下注射であると用量が増えた分の効果が期待できるということが報告されています.すなわち,MTX12mg/週を越す量になってくると経口薬よりは皮下注射の方が同じ量でも効果が上がる可能性が示唆されます.
どのような方にメトジェクト®︎皮下注を使うかについてはこれからの検証も必要になってきます.メリットとして前述の様に皮下注射製剤の傾向として,悪心といった消化器症状の発現頻度が低いことが示唆されており,MTX経口薬でどうしても悪心などが辛いとった方には,皮下注射に変更することでメトトレキサートを継続できる可能性があります.他に,MTX経口薬で肝障害が強い場合にも選択肢として上がるかもしれません.また,RAの活動性を抑えこむのに高用量(12mg/週以上)が必要で,それでも効果が不十分な場合は,例え同じ量であっても,経口薬から注射薬に変更することで効果が上がるかもしれません.その一方で,デメリットとして,経口薬よりは薬価が高く,週1回であっても注射による痛みを伴うことがあり,それが嫌だという方もいらっしゃります.実際の臨床では,MTXを経口で開始し,悪心などの副作用で使いにくい場合,増量による効果が不十分な場合に,上述のメリット,デメリットを考慮しながら,患者さんと最適の治療薬を話し合った上で選択することとなるかと思います.
その他,我が国では承認されていませんが, RAに対して効果の報告されているアザチオプリン(イムランâ),シクロホスファミド(エンドキサンâ),シクロスポリン(サンデュミンâ,ネオーラルâ),ヒドロキシクロロキニン(プラケニルâ)があります.
生物学的製剤(bDMARDs)
RAの病態に深く関与するサイトカイン(ホルモン様の低分子量の蛋白で,各種の細胞から分泌され,これにより免疫反応の強さや期間が調節されています.さらに細胞と細胞間での情報交換に働いています)などをRAの病態に関連する部分のみを,選択的に抑制する事を目的として遺伝子工学的技術を駆使して開発されたお薬です.RAにおいてはTNFα,IL(インターロイキン)-1,IL-6といった炎症性サイトカインが,抗炎症性サイトカインに比べて非常に増えています.これらの炎症性サイトカインの中でTNFαはその中心的な役割を果たしていることがわかっています.TNFαは破骨細胞,滑膜細胞,軟骨細胞に影響を及ぼし,骨びらん,関節炎,関節裂隙の狭小化等の関節破壊にかなり関わっています.IL-6も多彩な生理作用を有し,肝細胞を介した急性期蛋白(CRP,フィブリノーゲン[FIB])の産生,B細胞を介した抗体産生,破骨細胞の活性化があり,RAの炎症,自己免疫現象,関節破壊などに強く関わっています.生物学的製剤はこれらの部分に対して,それぞれ,ピンポイントで抑えます.
生物学的製剤は抗体ないし融合蛋白で,いずれも注射薬です.有用性は高いですが,疾患を完治させる薬剤ではありません.感染症など一部の副作用リスクは他のcsDMARDsに比し比較的高いですが,その一方で化学的な人工物でないため,肝臓や腎臓に対する負担は少ないといえます.製造過程,管理が大変なため一般的に高価な薬剤です.現在,RAに対して保険適用が認められている製剤は,インフリキシマブ(レミケードâ),エタネルセプト(エンブレルâ),アダリムマブ(ヒュミラ®),ゴリムマブ(シンポニー®),セルトリズマブペゴル(シムジア®),トシリズマブ(アクテムラ®),アバタセプト(オレンシア®),サリルマブ(ケブザラ®)です.3〜6ヶ月きっちりとしたcsDMARDs治療を行いRA活動性が制御出来ない場合(寛解/低疾患活動性にならない場合や寛解/低疾患活動性以下になっていても関節破壊が進行する場合など)に適応になります.生物学的製剤を使用する場合,どの製剤も同等に最初から使用することができます.
これらの生物学的製剤は長期安全性や使い方なども確立してきていますが,課題もあります.以前よりはかなり安くなってきましたが薬価が高いこと,いずれも注射薬ですので患者さんに負担をかけること,引き続き感染症に注意が必要なことなどがあげられます.また,これらの薬剤はRAの病態を改善・進行抑制することはできますが,破壊された関節は基本的には修復できない,関節破壊の結果として生じた疼痛・機能障害は改善できない,継続的に投与が必要になる可能性がある,そしてRAを治癒に導く薬剤(一部薬剤フリーになる症例も報告されていますが)ではない等について留意する必要があります.しかし,これらの製剤はいずれも,従来のcsDMARDsでは達成することが困難であった,現在のRA治療の目標である寛解(臨床的寛解,構造的寛解,機能的寛解,完全寛解,薬剤フリー寛解)への導入にかなり寄与できると考えられます.
以下,各製剤について述べます.
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1.TNF阻害薬
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TNFαを阻害する事を目的として作られた生物学的製剤で,現在本邦で使用できるものは5種類あります.具体的には,インフリキシマブ(レミケードâ),エタネルセプト(エンブレルâ),アダリムマブ(ヒュミラ®),ゴリムマブ(シンポニー®),セルトリズマブペゴル(シムジア®),オゾラリズマブ(ナノゾラ®)です.
(a) インフリキシマブ(レミケードâ)
インフリキシマブ(レミケードâ)は,キメラ型(25%がマウス,75%がヒト成分でできた)抗TNFαモノクローナル抗体でTNFαに特異的に作用します.抗TNFα抗体に対する自己抗体産生を防ぐ目的でMTXとの併用が必要です.可溶性および膜結合型TNFαを中和し,MTXとの併用でDMARDs抵抗性RAに対して優れた臨床成績が報告されています.投与方法は,最初の治療開始2週間後,その後4週間,その後は8週ごとに約2時間以上かけて点滴にて投与します.現在はRAの活動性に応じて増量や期間短縮も可能です.効果発現は早く,多くの例で2週間以内に症状改善効果が認められます.更に関節破壊の進行の停止効果も認めました.副作用としては,急性または遅発性のアレルギー反応(まれにアナフィラキシーショックあり)や頭痛,感染症(結核を含めた日和見感染,一般細菌による敗血症)等が挙げられます.
(b) エタネルセプト(エンブレルâ)
エタネルセプト(エンブレルâ)は,可溶性TNFレセプター融合蛋白で,血中のTNFαを中和したりTNF受容体にすでに結合したTNFαに受容体と競合して結合したりして効果を発現します.MTXとの併用あるいは単独でDMARDs抵抗性RAに対して優れた臨床成績が報告されています.週に2回あるいは1回皮下注射にて投与します.自己注射が可能です.効果発現は早く,多くの例で2週間以内に症状改善効果が認められます.関節破壊の進行の停止効果も認めました.副作用としては,注射部位反応,アレルギー反応や感染症(結核を含めた日和見感染,一般細菌による敗血症)等が挙げられます.
(c) アダリブマブ(ヒュミラ®)
アダリブマブ(ヒュミラ®)は完全ヒト抗TNFαモノクローナル抗体です.2週間に1回の皮下注射にて,他のTNF阻害薬と同等の効果があります.自己注射が可能です.その効果を最大限に発揮するためにMTXの併用がお勧めです.副作用としては,注射部位反応,アレルギー反応や感染症(結核を含めた日和見感染,一般細菌による敗血症)等が挙げられますが,MTXを併用することで注射部位反応の副作用を減らすことが知られています.
(d) ゴリムマブ(シンポニー®)
ゴリムマブ(シンポニー®)も完全ヒト抗TNFαモノクローナル抗体です.4週間に1回の皮下注射にて,他のTNF阻害薬と同等の効果があります.通常1回50mgで投与しますが,RAの活動性に応じて1回100mgまで増量可能です.副作用としては,注射部位反応,アレルギー反応や感染症(結核を含めた日和見感染,一般細菌による敗血症)等が挙げられます.
(e) セルトリズマブペゴル(シムジア®)
セルトリズマブペゴル(シムジア®)は新しいタイプの抗TNF製剤です.この製剤は,ヒト由来モノクローナル抗体の一部(Fc領域)を取り除いたTNFとの結合部分(Fab’)の断片を残し,その部分にポリエチレングリコールを結合(PEG化)したヒト化抗TNFα抗体です.PEG化することで,薬剤が体に留まりやすくなり(半減期の延長),炎症部位への移行が良くなります.2週間に1回の皮下注射で,他のTNF阻害薬と同等の効果がありますが,初回,2回目,3回目は倍量を使用するため(ローディング),他の抗TNF皮下注射製剤に比較して効果発現が早いです.自己注射が可能です.副作用としては,注射部位反応,アレルギー反応や感染症(結核を含めた日和見感染,一般細菌による敗血症)等が挙げられます.胎盤移行性や乳汁への移行がほとんど無いため,妊娠中,出産後の授乳中の患者さんにも使用が可能です.
(f) オゾラリズマブ(ナノゾラ®︎)
オゾラリズマブ(ナノゾラ®︎)皮下注は2022年9月26日に承認,2022年12月1日新発売され,「既存治療で効果不十分な関節リウマチ」を対象疾患とした皮下注射製剤です(製造販売元:大正製薬株式会社).RAに使用される薬剤で,生物学的製剤(bDMARDs)に分類され,本邦において6剤目のTNF阻害薬に分類される薬剤です(TNF阻害薬につきましては,既発行のリウマチセンターニュース第6号をご参照下さい).ナノゾラ®︎はシリンジ製剤で,通常,成人にはオゾラリズマブ(遺伝子組換え)として1回30mgを4週間の間隔で皮下投与します.ナノゾラは日本初のナノボディ®製剤です.通常,国内の抗体薬と言えば,ヒトのIgG抗体を応用した薬剤ですが,ナノゾラは従来の抗体薬とは少し違う構造をしています.ヒトIgG抗体は重鎖と軽鎖から成るタンパク質ですが,ラマ重鎖抗体は重鎖のみで構成され,そして,ラマ重鎖抗体の可変領域を抜き出したものをナノボディと呼びます.ちなみに,ナノボディというのはAblynx社の登録商標で,「VHH抗体(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)」「シングルドメイン抗体」と呼ばれる事もあります.ナノボディは通常のIgG抗体と比べて分子量が小さいため,従来なら作用できなかった部位にも作用が期待されている技術です.ナノゾラ®︎皮下注(オゾラリズマブ)の構造ついて,ナノゾラは,2つの抗ヒトTNFαナノボディと1つの抗ヒト血清アルブミンナノボディを持つ三量体構造のヒト化融合タンパク質の低分子抗体です.ナノゾラは,2つの抗ヒトTNFαナノボディ®と1つの抗ヒト血清アルブミン(HSA)ナノボディ®を持つ三量体構造のヒト化融合タンパク質(低分子抗体)です.すなわち,1つの分子で3つの結合部位を有する抗体で,RAの原因となるTNFαと2つの部位で結合し抗炎症作用を示し,アルブミンと結合することで,血中半減期が延長し,より長時間血中で作用できると考えられています.ナノゾラの有効性を検証するために,国内第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(OHZORA試験)が行われました.本試験は,MTX(メトトレキサート)治療にも関わらず活動性を有するRAの患者さんを対象に,MTX併用下でナノゾラ(30mg or 80mg)の4週間投与とプラセボ(効果のない偽の薬)群を比較しました.主な評価項目は「投与16週後の20%改善率(ACR 20%改善率)」と設定されました.その結果,投与16週時のACR 20%改善率はナノゾラ30mg:79.6%,80mg群:75.3%,プラセボ群:37.3%とナノゾラ30mgおよび80mg群はいずれもプラセボ群に比較し有意差をもって改善しました(いずれもP<0.001).その他,臨床症状の改善効果,身体機能改善効果を示しました.5%以上に認められる副作用として,上咽頭炎が報告されました.重大な副作用として,重篤な感染症:蜂巣炎(0.7%),肺炎(0.3%)等,結核(頻度不明),ループス様症候群(頻度不明),間質性肺炎(2.4%),脱髄疾患(頻度不明),重篤なアレルギー反応(頻度不明),重篤な血液障害(頻度不明)などが挙げられていますが,これは他のTNFα阻害薬と同様と考えられます.ナノゾラ®︎皮下注(オゾラリズマブ)の使いどころは?
ナノゾラは国内初のナノボディ製剤で,今後,他の疾患への応用も期待される技術です.近年,RA治療薬はbDMARDsやJAK阻害薬など,様々な製品が登場し,TNF阻害薬も多くの製品がある中,ナノゾラがどの位置づけで使用されていくのはこれからの課題です.メリット,デメリットを考慮しながら,患者さんと最適の治療薬を話し合った上で選択することとなるかと思います.
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2.IL-6阻害薬
TNFと異なる炎症性サイトカインであるIL-6を標的とした製剤として,かなり以前から治療に使われているヒト化抗IL-6レセプター抗体であるトシリズマブ(アクテムラ®)と完全ヒト型抗IL-6レセプター抗体であるサリルマブ(ケブザラ®)があります.トシリズマブ(アクテムラ®)点滴でも皮下注射でも投与可能です.点滴静注の場合は1ヶ月に1回,皮下注射の場合は2週間に1回の投与で自己注射も可能です.また,効果不十分な場合は1週間に1回に短縮できます.サリルマブ(ケブザラ®)は2週間に1回の皮下注射で自己注射も可能です.これらの薬剤は,非常に炎症反応を抑える効果が高く,早期から炎症反応性物質を抑制します.その反面,副作用としての感染症を起こした際も炎症反応が上がらなかったり,症状をマスクしたりしまう可能性もありますので注意は必要です.特に大腸憩室炎にかかったことのある方は腸穿孔の副作用も報告されています.その他の副作用としては,検査値異常(肝機能異常,白血球減少症,高脂血症等)や皮膚障害等があります.
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3.T細胞選択的共刺激調節剤
炎症性サイトカインではなく,T細胞を標的とした生物学的製剤も使用出来るようになりました.これがアバタセプト(オレンシア®)で,可溶性受容体融合蛋白です.この製剤も点滴でも皮下注射でも投与可能です.点滴静注の場合は1ヶ月に1回(最初の1ヶ月は2週間ごと),皮下注射の場合は1週間に1回の投与で自己注射も可能です.RAの病態に関連しているT細胞の活性化を抑制することにより効果が発現します.その効果はTNF製剤と同等であることが分かっています.投与時反応や注射部位反応も少なく,感染症の副作用も,従来の生物学的製剤比し少ないという報告もあります.
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4.バイオシミラー製剤
バイオシミラー製剤は,上述しました先行バイオ医薬品と同等/同質の品質,安全性,有効性を有する医薬品として,異なる製造販売業者により開発される医薬品です.バイオシミラーの同等性/同質性は,先行バイオ医薬品同様に,①品質特性 ②非臨床試験 ③臨床試験で評価します.すなわち,同等/同質とは,全く同一であることを意味するものではなく,品質特性において類似性が高く,かつ,品質特性に何らかの差異があったとしても,最終製品の安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できることを意味します.バイオシミーがジェネリック医薬品と大きく異なる点は,品質・安全性・有効性において,先行バイオ医薬品との同等性/同質性を臨床試験等でしっかりと検証することが求められる点です.先行バイオ医薬品に比較し薬価がかなり安く,医療費を理由に生物学的製剤が導入困難であった患者さんに対してより広く適切な治療が提供できる可能性が高まります.そして増加していく医療費を少しでも抑制出来る可能性があります.
本邦初のRAに対するバイオシミラー製剤として,2014年11月28日にインフリキシマブBSが発売されました.この薬剤は,前述のインフリキシマブ(レミケード®)のバイオシミラー製剤です.RAに対して,いくつかの臨床試験で評価しされ,インフリキシマブと同等,同質であることが実証されています.次いで,エタネルセプトBS,アダリムマブBSとバイオシミラー製剤が開発され使用できるようになっています.しかしながら,長期的なことも含めて,品質,安全性,有効性すべてにおいて,先行品に取って代わる医薬品として信頼して使用されるようになるには更なる実績の蓄積が望まれます.
分子標的型合成抗リウマチ薬(tsDMARDs)
従来型合成DMARDsとは全く作用機序の異なる,ある分子を標的として作られた新しいDMARDがヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤といいます.RAの患者さんの体内では,生体内の炎症に関連するたんぱく質であるサイトカインが免疫細胞から誤った「炎症を起こせ」という情報をもって過剰に分泌され,そのサイトカインが,次の炎症にかかわる細胞の受容体にくっつき細胞内に伝達され,炎症性サイトカインの産生を促すという悪循環が起こっています.その細胞内の伝達を担う酵素の一つがJAKという酵素です.JAKという酵素には,JAK1,JAK2,JAK3,チロシンキナーゼ2(TYK2)という4種類があり,それぞれが組み合わさって受容体と結合しており,細胞の核に伝達物質を送り炎症細胞を活性化させています.細胞から生成された炎症性サイトカインが持続してしまうと,慢性的な炎症や滑膜増殖,骨破壊に進んでしまいます.細胞内に入ったこの薬は,JAK経路を利用する生体内の炎症性サイトカインによる情報経路を受容体の根本で阻害します(図1).すなわち,JAK経路を利用して産生される,RAの病気の形成に関係したいろいろなサイトカイン産生を広く抑えてRAの病気の基を抑えるお薬です.
現在,わが国で使用できるJAK阻害薬は,トファシチニブ(ゼルヤンツ®),バリシチニブ(オルミエント®),ペフィシチニブ(スマイラフ®),ウパダシチニブ(リンヴォック®),フィルゴチニブ(ジセレカ®)の5剤あり,それぞれのお薬で飲む回数,JAKの阻害する種類,お薬を代謝する酵素,排泄経路などが異なります.
生物学的製剤は分子の大きさが大きいため細胞の中に入ることができませんが,JAK阻害薬は分子の大きさが小さいため細胞の中に入って効果を発揮する飲むことができるお薬です.前号までにお話しした生物学的製剤は1種類のサイトカインを阻害するのに対して,JAK阻害薬は数種類のサイトカインを同時に阻害するため,経口薬でありながら,その治療効果と効果が出るまでの早さも生物学的製剤と劣らないことが分かっています.また,痛みであったり体のだるさであったりというようなRAの自覚症状の改善も生物学的製剤より良いと報告されています.
ただし,生物学的製剤と同様にお薬の値段も高いですので,経済的には負担がかかる可能性があります.起こりうる注意すべき副作用としては,感染症(肺炎,敗血症,結核,帯状疱疹など),深部静脈血栓症/肺塞栓症,主要心血管イベント(MACE),悪性腫瘍に注意が必要です.また,特に日本人では帯状疱疹の出現頻度が高いといわれています.それらの副作用の危険因子を持っているかどうかなど,導入前にしっかり把握して,必要に応じて予防策を行って使うことが肝心です.実際の臨床データーからの報告では,MACEや深部静脈血栓症,悪性腫瘍を明らかに増やすというデータはありませんが,長期安全性などについては,これからも検証していく必要があります.
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1.トファシチニブ(TOF[ゼルヤンツ®])
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TOFは2013年7月に発売された1剤目のJAK阻害薬です.JAK1,JAK2,JAK3のすべてを阻害します.ゼルヤンツは,過去の治療においてメトトレキサート(MTX)などをはじめとした少なくとも1剤の抗リウマチ薬による適切な治療を行っても効果が不十分な場合に,ゼルヤンツ錠1回5mgを1日2回内服します.中等度又は重度の腎機能障害や中等度の肝機能障害がある患者さんでは5mg1日1回とします.市販後臨床試験を終了している薬剤です.
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2.バリシチニブ(BARI [オルミエント®])
BARIは2017年9月に発売された2番目のJAK阻害薬です.BARIはJAK1とJAK2を強く抑えます.通常はオルミエント錠4㎎を1日1回内服します.この薬剤は腎臓から排出されるため,腎臓の機能が低下している場合には1日1回2mgに減量する必要があります.また腎臓の機能が高度に低下している場合には使用できません.効果が認められた場合には2mgを1日1回に減量することことができるといる臨床試験の結果があります.臨床試験において,MTXとの併用でTNF阻害薬に優る有効性が報告されています.市販後臨床試験を終了している薬剤です.
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3.ペフィシチニブ(PEF [スマイラフ®])
PEFは日本で開発され,2019年7月に発売された3番目のJAK阻害薬です.JAK1,JAK2,JAK3およびTYK2の全てのJAKファミリーを阻害します.通常はスマイラフ錠を150mg1日1回服用しますが,患者さんの状態によっては100mgで使用することもあります.腎機能障害患者さんに対する用量の制限はありませんが,中等度の肝機能低下が認められる場合は50mgに減量する必要があり,重度の肝機能低下が認められる場合には使用する事ができません.本邦で開発されたため,日本人を対象としたデータが豊富です.日本人における実臨床における効果と安全性に関して,市販後臨床試験が進行中です.
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4.ウパダシチニブ(UPA [リンヴォック®])
UPAは,2020年4月に発売された4番目のJAK阻害薬です.この薬剤はJAKのなかでJAK1を強く阻害するため,JAK1選択的阻害薬といわれていましたが,一部JAK2も阻害することも分かって入ります.通常は15㎎を1日1回投与しますが,患者さんの状態に応じて7.5㎎1日1回で投与することもあります.臨床試験において,MTXの併用でTNF阻害薬に優る有効性が報告されています.日本人における実臨床における効果と安全性に関して,市販後臨床試験が進行中です.
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5.フィルゴチニブ(FIL [ジセレカ®])
FILは,2020年11月に発売された5番目のJAK阻害薬で,この薬剤もJAKのなかで主にJAK1を阻害しますが,一部JAK2も阻害します.他のJAK阻害薬同様MTXなどの既存治療で効果不十分なRAが適応となります.体内でカルボキシエステラーゼによって代謝され,大半が尿中に排泄されます.一部の代謝産物にも治療効果があることが分かっています.用法用量は200 mgを1日1回投与するのが基本ですが,腎機能の低下(eGFR<60)した患者では100 mgを1日1回投与とし,eGFR<15の重度の腎障害では投与禁忌とされています.関節破壊抑制効果は強いといわれています.従来のJAK阻害薬に比較して帯状疱疹の発生率が低いという報告もあります.日本人における実臨床における効果と安全性に関して,市販後臨床試験が進行中です.
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6.注意すべきJAK阻害薬の安全性について
海外にて,50歳以上で少なくとも1つ以上の心血管(CV)リスク因子がある関節リウマチ患者を対象に,TOFとTNF阻害剤の安全性を比較することを目的とした臨床試験(ORAL Surveillance試験[A3921133試験])が実施され結果が報告されました.主な評価項目は主要な心血管有害事象(MACE)および悪性腫瘍(非黒色腫皮膚癌を除く)の発生に関し,TNF阻害剤に対するTOFの非劣性(劣らないこと)を証明する事でした.結果として,事前に規定したTOFのTNF阻害薬に対する非劣性の基準を満たしませんでした.もともと,対象者がTNF阻害薬に有利で,RAの一般患者さんを対象としておりませんので,実際に一般のRAの患者さんと比較して劣っているかどうかは定かでありません.また,非喫煙者や非高齢者の場合や,人種によってはTOFとTNF阻害薬とのリスクに差がありません.リスクを考慮して使用すれば安全に使用できる可能性もあると考えられます.更に,TOF以外のJAK阻害薬についても同じ事かどうかもはっきりしません.これからの症例の積み重ねによって,これらの点については明らかにしていく必要があります.
おわりに
1950年代には,待合室には車いすの患者さんであふれていました.1980年代にはメトトレキサートを中心に効果的な治療が普及し,1990年代には,進行期の治療から早期治療への移行,そして1995年には,リウマチ科の標榜により早期診断,早期における専門医への紹介が可能となりました.2000年には,寛解という高い目標が現実的なゴールに,2003年には生物学的製剤,更に2013年にはJAK阻害薬が登場し,関節破壊抑制から関節破壊修復への期待が持てるようになってきています.RAの治療は日々進歩し続け,将来的には,RAが本当の意味で治癒できる時代や,RA発症を予防できる時代が訪れてくるかもしれません.
最後に良いこと悪いことをまとめますのでご参考にして下さい。
リウマチに悪いこと
- 無理をすること
- ステロイド薬を急に中止すること
- 調子がよいからといって治療を長期中断すること
- 健康な人と競うこと
- からだをぬらしたり冷やしたりすること
- 不用意に重い物を片手で持つこと
- 同じ姿勢を長時間続けること
- 消化のわるいものや甘いものをとりすぎること
- 高い枕で寝ること
- 風邪をひくこと
- 民間療法を病院の治療より優先すること
リウマチに良いこと
- リウマチを受け入れリウマチ療養に専念すること
- 体に異変が起こった場合はすぐに主治医に連絡する
- 全身の関節の動く範囲を毎日確認する
- 運動と安静のバランスが大切
- 将来に希望をもち明るく生きること